仕舞われた人形は久しい眩しさに目を細める。


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きょとん、とは首をかしげた。
その姿はいかにも人形、といった硬い動作ではなく、自然にかしげた。
流石は赤砂のサソリが手がけていた技術だ、とカンクロウは内心舌を巻いた。
カンクロウ自身、何体か傀儡人形を作って世に出したことはあったが、生前のサソリが作ったカラスやクロアリ並こそ威力と繊細さはあったが、やはり似て非なるものであった。
これ程まで、技術に差がついているということを嫌というほど思い知らされた。
「五代目・・・?このガキが?」
ハン、とが我愛羅を嘲け笑う声で我に返った。
「冗談言わないでよ。
三代目様に叱られるわよ、それと、四代目の若様にも。
こんな、まだ年端も行かないガキに影が勤まるわけ、ないじゃない」
ケタケタ、そんな効果音が聞こえてきそうなくらいには肩を揺らして笑った。
「さ、アタシは遊びに付き合っていられるほど暇じゃないのよ。
サソリ様は、どこ?ここを開けたのはあの方でしょう?
どこにいるの?」
我愛羅はただ、自分を笑っているを哀れみとも慈悲とも取れる目をしてみつめていて、カンクロウは少し気分を害しながらも身体を起こしてに歩み寄った。
さん、悪いけど、俺達は冗談なんか言っちゃいないぜ。
ソイツは正真正銘、五代目風影だ。ほら、ソイツの羽織の背中を見てみな」
言われて我愛羅はゆっくりとに背を見せ、彼女はそれに目を見張る。
「まさか・・・」
「その、まさかだよ。
ついでに言うと、ここを開けたのは俺で、三代目はとうの昔に仏だ」
「え・・・だって、ここを明けられるのはサソリ様だけだって・・・。
それに、あの術はサソリ様だけの術のはずよ!
三代目様が・・・死んだ?!」
かしゃ、とすでに人間のソレとはかけはなれた腕の関節を揺らし、は美しい顔を少しだけゆがめた。
「俺も一応、傀儡隊のいち隊長だからね。
書類を掻っ捌いて色々と研究させてもらったのさ。だから、第六奥義だって使える。
流石にサソリのように無傷ってワケにはいかなかったけど・・・」
「気安くあの人を呼び捨てにしないで・・・」
怒気迫るは一瞬の速さでカンクロウの胸座を掴んでいて、彼は包帯だらけの手を降参、といわんばかりに軽くあげた。
「悪い、離してよ。
出してあげたんだし」
「いい加減にしなさい、ガキ!
少しは目上を敬いなさい!」
がばっと手首の間接をはずして中から紫色の液体が伝う小刀が現れた。
「寝なさい」
ぐさ。
切っ先がカンクロウの喉仏に命中したかのように見えた。
「のどかじゃないな。
チヨバア様といい、テマリといい・・・。
アンタも例外じゃないが、どうしてこうウチの里の気性の荒い女性が多いんだ?」
「っ・・・ジャリガキ、まだいたの?」
カンクロウとの間に、不自然に浮いた砂が刀を受け止めていた。
「それに、この力、その目の隈。
アンタ守鶴の人柱力だね?
ますます、五代目風影だかどうか疑いたくなるわね。
その羽織を掛けているってことは本物なんでしょうけど」
「当たりだ。
時代は流れている。今は人柱力でも影に立てるんだ。
木の葉も九尾の人柱力が火影候補だ。
補足するが、四代目も死んでいる。知りたいなら教えてやるが、四代目は俺の父親だ。
とんだ駄目親父だったがな。
それと、いい加減兄を放してもらおうか?」
いつの間にかの腕を我愛羅の砂が覆い、ミシミシと音を立てて軋んでいた。
「へぇ・・・似てない兄弟もいたものね」
やっとカンクロウの服を離したは腕を振って砂を落とした。
「隈が取れれば我愛羅も俺と同じ色男さ」
ぎんろ、カンクロウの言葉にはギシギシと音を立てんばかりに首を動かして勢いよく彼の懐へと飛び込んでいった。
「どっからそんな自信が沸いてくるのかしら?
色男さん」
「むがっ!」
とカンクロウの顔が近づき、ちゅっと音を立ててすぐに離れた。
「わかった、アンタが隊長であっちのジャリガキが風影だということは信じてあげる。
三代目様はともかく、四代目の若様が仏様になっているのも判らなくはないわ」
は真っ赤になっているカンクロウのホッペをつねりまわし、絶句して口をあけている我愛羅の目を見据えて本題に入った。
「サソリ様は?
どこ?
いるんでしょ?」
「いない」
答えようとした我愛羅より先にカンクロウが口を開く。
「嘘」
「嘘じゃない、死んだ」
「嘘、ウソウソウソウソっ!」
「嘘じゃない。それとカンクロウに刃物を突きつけるのはよしてくれないか。
腕を潰すぞ」
肘の間接をはずしたは刃渡り50cmもあろうかと思われる錐を勢いよくカンクロウに向かって振り上げるが、やはり我愛羅の砂によって阻まれる。
「離してやれよ、我愛羅」
「ん・・・しかし・・・」
「離すんだ」
「・・・わかったよ」
しぶしぶ我愛羅がの腕を放したらその瞬間にカンクロウに切りかかってきた。
「きゃぁっ」
「ナメてもらっちゃ、困るじゃん」
人差し指と薬指を小粋に掲げていつもの不敵な笑みを浮かべているカンクロウに、は地面に押さえつけられていた。
「俺も一応、傀儡隊の隊長なんでね」
「くぅ・・・」
悔しそうな目をして彼を見上げている
そんなをカンクロウはどこか哀しげな目で見た。
「傀儡人形を手懐けるなんて、お手の物じゃん」
「なっ・・・」
「言い過ぎじゃないか、カンクロウ」
やはり無表情な、だが厳しい声で我愛羅は言う。
「・・・人形じゃないか。
サソリの作った、都合の良い戦闘人形」
「まるで俺を作った里の人間だ」
沈黙が、辺りを包んだ。


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人形とは、我の思うことを後に遺していく物也。